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政府のでたらめな憲法論をただす

                       司法研究科 永田秀樹 1 9条解釈変更の根拠は65条?  憲法65条は「内閣」の章の最初の条文で、内閣の権限についての総則的規定です。何と書いてあるかというと「行政権は、内閣に属する」です。3権分立に基づくあたりまえの規定です。内閣の主な仕事は国会が作った「法律を誠実に執行」(73条1号)することです。内閣が法律を作り変えることはできません。ましてや憲法を作り変えることはできません。憲法を変えることは立法機関である国会もできません。主権者国民だけがなし得ることで、その手続は憲法96条に書かれています。  国会も内閣も憲法の枠内でしか行動することは認められません。戦争放棄の規定を戦争ができる規定だと読み替えるのは越権行為もはなはだしい。  憲法をどのようにでも解釈する権限が65条で内閣に与えられているというのは、立憲主義の基本から外れた驚くべき謬論です。先進国の行政権規定の解釈で、このようなことをいえば、「おたくの憲法は飾り物ですか」と笑われるでしょう。 2 「国民の生命、自由及び幸福追求権を根底から覆すおそれ」が集団的自衛権発動の要件?  憲法は政府の圧政から国民一人ひとりの自由と権利を守るために作られました。政府は国民からの委託を受けて国民の福利のために仕事をしていますが、ときに暴走します。そうならないようにするための歯止め、権力に取り付けられた鎖が憲法です。政府が今、この鎖を引きちぎろうとしています。あるいは外してくれと国民に訴えています。国民は知っています。人権が脅かされるのは内政だけでなく、他国との戦争状態に国民を陥れる誤った外交からも生じることを。アジア太平洋戦争においては、無数の他国民が日本軍によって殺されただけでなく、 日本国民も戦争協力のために表現の自由や学問の自由、財産権を奪われました。沖縄の地上戦では10万近い民間人の生命が奪われました。戦争こそ最大、最悪の人権侵害です。その反省に立って、日本国憲法は「わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、…」と規定しているのです。これが立憲主義です。憲法で戦争を禁じられている政府が、国民の生命と自由を守るために戦争をするというのは、何という矛盾、何という倒錯でしょうか。これは、「おそれ」か「明白な危険」かを論じる以前の問題です。 3 必要最小限度の集団的自衛権行使?  政府は、日本も国際法上は個別・集団両方の自衛権を有しているが、日本国憲法の9条の縛りによって個別的自衛権の行使しか認められないという立場をとってきました。憲法の前文と9条を素直に読めば個別的自衛権の行使もできない(自存自衛のためであっても戦争はできない)ように読めます。しかし、自衛隊を作ったとき(1954年)に、他国から武力攻撃されたときに必要最小限度の実力部隊を持ってそれに反撃をすることは憲法で禁止されていないという解釈をすることによって、自衛隊は合憲であるとしてきました。自衛隊合憲論は、自衛隊は日本の領域防衛を超える行動はできないという歯止めとセットになっていました。日米安保条約改定時(1960年)にもこの9条解釈は維持され、ぎりぎりのところで自衛隊が集団的自衛権に踏み込まないように日本の役割が限定的に規定されました。この歯止めを外すと自衛隊合憲論そのものが崩れます。ちなみに自衛隊法が成立したときの参議院の付帯決議は次のように述べていました。「本院は、自衛隊の創設に際し、現行憲法の条章と、わが国民の熾烈なる平和愛好精神に照し、海外出動はこれを行わないことを、茲(ここ)に更(あらた)めて確認する。」  「必要最小限度の実力部隊」という表現も、自国の領域防衛=個別的自衛権を正当化するための理屈です。それを超えれば必要最小限度ではありません。他国の紛争に軍事介入するときに必要最小限度などということはありえません。どこまで深入りしどこで引き上げるのか。世界中で戦争をやってきたアメリカの例を見るまでもなく、いったん戦争当事国になれば、軍事力の投入は可能な最大限度までエスカレートするのが常です。目的のためには手段を選ばないのが戦争の本質だからです。 4 集団的自衛権を認めても日本はこれまで通り戦争をしない?戦闘に参加しない?  安倍首相は、集団的自衛権を認めても日本はこれまで通り戦争をしないともいっています。これは、全く理解不可能な発言です。安倍首相は東京オリンピックのアピール演説で、収束の見込みの立たない福島の事故を前にして「Fukushimaはコントロールされている」と述べて私たちを驚かせました。それと同じくらいの大嘘ではないでしょうか。戦争をしないのならば集団的自衛権を認める必要はありません。まさにこれまで通りでいいのです。「集団的自衛権を認めても直ちに中国に戦争を仕掛けるつもりはありません」くらいの軽い意味で言っているのかもしれませんが、政府に戦争開始のフリーハンドを与える国民としてはたまったものではありません。知性を軽んじるこの指導者は軽い気持ちで戦争を始めるかもしれません。  5 自衛隊や日米安保条約があったからこそ日本の安全が守られてきた?そのおかげで戦争に巻き込まれることもなかった?  これもうそです。「9条を守れ。2度と戦争をしていけない」という国民の声が強かったからこそ、"Show the flag!"とか"Boots on the ground!"というアメリカの要請にもかかわらず、大規模な海外派兵が行われなかったのです。イラク戦争のときには、非戦闘地域という名目で自衛隊の部隊が派遣されました。戦死者は出ませんでしたがストレスによる自殺者がかなり出ました。  韓国とアメリカとの間には米韓相互防衛条約があります。憲法9条のない韓国はベトナム戦争のとき、この条約に従ってベトナムに軍隊を送り、ベトナム人をたくさん殺しました。そのため戦争が終わったあと、韓国はベトナムとの関係修復に苦労しました。日本には憲法9条があり、同盟関係がありながらも米軍基地の提供だけにとどまったために戦争への直接の参加はしなくてすんだのです。

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